虹の橋が落ちた。
猫の数が多過ぎてついに落ちた。
人間と猫の寿命の違いから、
人間が迎えに来て橋を去る猫の数より
新しく来る猫の方がどうしても多くなってしまう。
その結果、何が起きたかというと、
他界したはずの猫たちが現世に戻ってきた。
それはそれは大勢の霊体の猫たち。
大喜びした人間は数多く。
大騒ぎした人間も数多く。
ある女性の元には、7匹の霊体猫が帰ってきた。
亡くなった猫に会えて喜んだ女性は
7匹の猫達に山盛りのごはんをあげた。
しかし悲しいかな猫達は霊体なので物体のごはんは食べられなかった。
残ったごはんは現在生きている飼い猫2匹が残らず食べてしまい、太った。
7匹の猫達はごはんは食べないが、女性に付かず離れず甘えた。
寝ても覚めても、猫達の毛の感触とゴロゴロとのどを鳴らす音が聞こえる。
女性は幸せだった。
病気で亡くなった猫もいれば、事故で亡くなった猫もいる。
猫が亡くなったあとはいつも
「ああしておけば」「こうしておけば」
と後悔ばかりが残った。
今まで見送ってきた7匹分の後悔が残っていた。
その後悔がきれいさっぱり無くなった。
7匹がとても幸せそうだったから。
猫とは言葉が通じないけれども、
快か不快かはわかる。
7匹の霊体猫は間違いなく幸せそうだった。
やがて生きていた2匹の猫達も亡くなった。
2匹の猫達はしばらく姿を消していたが、やがて女性の元へ霊体となって戻ってきた。
虹の橋はまだ修復されていないのかもしれない。
女性にはもちろんそんな事情はわからなかったが、
2匹の猫達とまた暮らせることがただただ嬉しかった。
猫がいないのに猫の声が聞こえる女性の家は
陰で「化け猫屋敷」と呼ばれていたが、
当の女性がとても幸せそうだったので、
やがてその噂も消えた。
幸せな女性と幸せに暮らす霊体猫たちに吸い寄せられるように
関係無い霊体猫が一匹また一匹と
その家に住みつくようになった。
女性があまりにも幸せそうだったので、
その家はいつしか、座敷童子ならぬ座敷猫屋敷と呼ばれるようになった。
座敷猫って普通やんけ、と思われるかもしれないが、
そう呼ばれてしまったんだからしょうがない。
女性があまりにも幸せそうだったので、
霊体猫達も安心してあちこち散歩に行くようになっていた。
身が軽くそこら中をふらつける猫達は
さまざまな事例に遭遇する事になる。
割と見かけるのが迷子猫とその飼い主だった。
意外と近くにいるのに出会えないケースが多い。
はがゆく思った霊体猫達は鳴き声で飼い主を導き、
迷子猫との再会をうながした。
そんなことが相次ぎ、いつしかその地域一帯が
「猫と幸せに暮らせる町」
と言われるようになった。
フラフラとそこら中を散歩していた霊体猫達は、
亡くなった猫と亡くなった飼い主が
お互いを探しながらいつまでも会えない事例も多くある事に気がついた。
はがゆく思った猫達は、やはり両者を再会に導いた。
その町はやがてその町自体が虹の橋になった。
虹の橋になった虹の町は、橋と違って地面にしっかりと根付いているので
底は抜けない。
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